僕はパリピになりたい。
※パリピ……パーティーピープルの略。とても楽しそうな人たち。
コミュニケーションに難がある僕からすると、パリピの人たちが輝いて見える。初対面であっても「ウェーイwwww」という決め台詞ですぐに打ち解けてしまう。
僕がパリピに出会う前、僕はパリピのことを毛嫌いしていた。なぜそんなにも無理矢理なコミュニケーションを取ろうとするのだろうか。ただただ鬱陶しいだけじゃないか。確かにクラブで女の子と一緒にウェーイできるのは本当に素晴らしい。素晴らしいが、その強引な話し方には疑問符がついてしまう。
しかし、実際にパリピに会って考えは全く変わってしまった。僕から話さなくても話題を振ってくれ、淀みなく続く会話。ATフィールド全開の僕ですら、その心の扉をこじ開けられパリピの話術に酔いしれる。寒い日の朝の布団のように、パリピの話術が僕を包み込みぬくもりを与えてくれたのだ。
パリピのすごさを体験した僕はとにかくパリピになりたかった。クラブとかいう未開の領域で女の子に「ウェーイwwww」とか言ってみたい。でも相変わらず口下手なのでパリピにはなれそうもない。
そこで気分だけでもパリピを味わうためにこんなものを買ってみた。

嘘発見器。この機械に手を乗せて質問に回答し、それが嘘である場合に「ビリビリビリ」と電流が流れる仕組みだ。
なぜ僕は嘘発見器を買ったのか。それは僕の中でのパリピは絶対に嘘発見器を使ってるイメージだからだ。女の子を囲いながら嘘発見器で盛り上がっているはずだ。間違いない。「昨日、×××をした?」「えーしてないよぉ☆」「ビリビリビリ」「ウェーイwwww」みたいな卑猥なやり取りをしているはずだ。間違いない!!なんてうらやま……おぞましい!!!
なので僕も嘘発見器を使ってパリピ気分を味わい、あわよくばパリピの話術を身につけて行こうと思い購入してしまった。
家に届いた嘘発見器を早速開封。

これがパリピ御用達の嘘発見器か……。どことなくドルガバの香水の匂いが漂っている。
さて、この嘘発見器、パリピでも使えるほどめちゃくちゃ簡単に扱える。
回答者は手を置いて質問に対し回答する(はい・いいえじゃなくてもOK!)
↓
判定ボタンを押す。
↓
判定結果が嘘であれば「ビリビリビリ」と電流が走る!
試しに、「何が届いたの?」と質問しにきた娘(4歳)にこの嘘発見器を使ってみた。
※子供と遊ぶときは「振動モード」に切り替えて使おう!
「これを使うと嘘をついているかがわかるんだ。試しにやってみてよ」
「やりたいやりたい!」
「じゃあ質問です。お父さんのこと、好き?」
「好き!」
………………ビリビリビリ!
うん、品質に問題はないようだ。
「“ライク”じゃなくて、“ラブ”だよ!」
言い訳をしていたが知らん。もうおもちゃは買ってやらん。
目次
嘘発見器を嫁に使ってみた
さて、この嘘発見器を購入した理由は2つあった。
一つ目はパリピ気分を味わいたいということ。
もう一つは嫁の真意を探りたいということだ。というのも、僕はパリピのように出来た男ではない。なんでか結婚してくれる女性を見つけることができたが、少ない魅力も年々衰えているだろう。要するに嫌われる要素がふんだんにあるはずなのだが、まだ嫁から好かれているのだろうか。そんな不安を解消するのも、今回嘘発見器を購入に至った理由だ。
僕は早速、パリピになりたいからという嘘の理由付けで、嘘発見ゲームに嫁を誘った。
「さぁ……闇のゲームの時間だ……」
「パリピが使う嘘発見器ってもっと明るい雰囲気で使うんじゃない?闇のゲームってなに……」
「ちなみに今回はとりあえず3つ質問を用意したので、それに“はい”か、“いいえ”で答えてね!嘘なら電流が走るから慎重にね!では、第一問!リンゴは好きですか?」
「え?リンゴ?……はい」
……………………
「セーフ!!!!」
「ちょ、ちょっと待って。何そのめちゃくちゃつまらない質問。もっとこう、えぐってくる質問とかないの」
「では第二問!」
「聞いちゃいねぇ……」
「最近、高価な買い物をしましたか?」
「……いいえ」
………………ビリビリビリ!
「ウェエエエエエエイ!!!!wwwww」
言えた!!!ついにパリピが日常的に使用している「ウェーイwww」を言うことができた!!これはパリピになれたといっても過言ではないのではなかろうか。
しかし、喜んでもいられない。先ほどの質問、嫁は高価な買い物をしたということだ。一家の大黒柱として何を買ったのか問い詰めなければ家計の破綻を招いてしまう。
「何買ったの?ブランド物のバッグとか?怒らないから言ってみ?ん?」
「……靴が壊れたのでしまむらで1,000円ほどの靴を買いました」
「!!!!」
僕は驚愕した。嫁は、普段から無駄遣いをしない人だ。だから高価な買い物なんて全くしない。高価じゃなくても服も鞄も靴もほとんど買っていない。そんな中、使用中の靴が履けなくなったから1,000円の靴を購入したのだ。それが嫁の中で“高価な物”扱いになっている。生活に必要な物をなるべく安めに買っているにも関わらず、だ。それはひとえに僕の稼ぎが悪いからと言い換えられるのではないか。まさか質問をした僕の方の心が抉られるとは想定していなかった。必ずビッグなパリピになるから、それまでどうか辛抱してくれ……
「……たまには洒落たものを買ってもいいんだよ」
「別に使えればなんでもいいよ。それより今朝、荷物が届いたけどあれ何?」
「あ、あれね?えぇっと?なんだっけな?」(ヤッベー。新型イヤホン買ったんだった……)
「何買ったの?」
「…………最後の質問です!」
「!!!!」
いよいよ、最後だ。嘘発見器を購入に至った不安をついに嫁にぶつける時が来た……。
「僕のことを好きですか?」
聞いてしまった。齢30を過ぎて、垂れだす肌、出てくるお腹、わいてくるシミ……外見を気にしなくなったことはもちろんのこと、男らしい態度をとることもほぼなくなってきた。付き合っていた当初は毎週のようにデートしていたが、今や週末は寝てばかりである。そんなダメダメな僕をまだ好きでいてくれているのか。結婚式で誓い合った想いは健在なのだろうか。今、真実の扉が開く。
「はい」
……………………
「セーフ!!!!」
やった!嫁は今でも僕のことを好きだったんだ!ということは、今の生活を続けても嫌われないということだ。明日も家でゴロゴロするぞー。
「壊れてんじゃないのこれ?」
「そんなことないよ。僕のことが大好きなんだね、恥ずかしがるなよ」
「……」
「じゃあ闇のゲームはここらでお開きに……」
「待ってよ。まだ私が質問してないじゃん」
「!!!!」
まずい。当然、そういう流れになることはわかっていた。いわばこの嘘発見器は諸刃の剣だ。相手に質問して一通り楽しんだら、必ずまわりまわって自分も回答者の立場に陥ってしまう。こうなる前にさっさと片付けたかったのだが、一瞬の隙をつかれてしまった。嫁じゃなかったら見逃しちゃうね。闇の扉は今、開かれたのだ……。

「では、第一問。リンゴは好きですか?」

「ダメ出しした質問じゃないか」
「序盤だしね。小手調べに」
「リンゴねー。好きだよ。はい。」
リンゴは大好きだ。さて判定は……
………………ビリビリビリ!
「イタイ!」
「ウェーイwww」
おかしい。僕はリンゴが大好きだ。あの甘酸っぱい味もさることながら、シャクッとした食感も素晴らしい。しかし、嘘だと判定されてしまった。……もしかするとリンゴの甘煮があまり好きじゃないところも判断基準にされたのだろうか。リンゴ好きならすべてのリンゴを愛せと。そういうことを嘘発見器はおっしゃっているのかもしれない。確かにそう考えると調理によっては嫌いな食べ方もある……そこをつかれた!
「じゃあ二問目ね。元カノのことを今でも思い出しますか?」
「ちょ、え?」
完全に虚をつかれた質問が飛んできた。ほのぼのとしたリンゴ畑から一転、修羅場が舞い込んできた。
「いいえ!」
しかし僕は自信をもって言える。元カノのことなんて思い出したくもない。今は嫁一筋だ。さて、判定は……
………………ビリビリビリ!
「イタイ!」
「ほう……」
「いや、違う!思い出してない!思い出してないから!」
「マユミちゃんのことかな?」
「違うから!」
「じゃあやっぱりノゾミちゃんのことね」
「モオオオオ!!!!」
僕の中で元カノは思い出したくもない存在だ。でももしかすると、嫌な思い出ということで、原記憶に残り続けているのかもしれない。それを掬い取られたのかもしれない。恐るべし嘘発見器。
「モトカノってなに?」
「“元・かの国の女王”の略で、やんごとなき女の人のことだよ」
「ふーん」
「じゃあ最終質問ね」
これを乗り切ればようやく解放される。先ほどの質問でわかったが、これは心理戦のようだ。肉体ではなく心を抓む戦い……このまま続けていたら、僕のメンタルがやられてしまう。
「私のことは好きですか?」
きた!もうこれで終わってもいい。だからありったけを……!
「はい!」
……………………
「セーフ!!!!」
やった。僕はついにやったぞ。嫁を好きなことはもちろん本心だ。この気持ち、しっかりと嫁に届いてくれたはずだ!
「へぇ、そうなんだ」
ツンとしているが、どうやらまんざらでもない様子。こりゃもしかすると今晩はステーキかもな。
「よし!楽しかったね、これにて闇のゲームはお開き……」
「“ライク”じゃなくて、“ラブ”なんじゃない?」
余計な一言が入った。この流れ、まずいぞ。
「あ、そうね。私のこと、愛してますか?」
「……はい」
………………ビリビリビリ!
こうして、僕のステーキはなくなった。
嘘発見器を使ってみて
今回、僕はパリピの雰囲気を味わうために嘘発見器を使ってみた。そして、パリピがなぜあんなにも楽しそうなのか、それがわかった気がする。
人とコミュニケーションを取ると色々な発見がある。相手のことはもちろんのこと、自分でさえも知らない自身のことまでも気付かせてくれる。つまり、コミュニケーション能力の高いパリピは、人との会話をすることで自分自身の至らない点を見つけ出し、改善を図ってより高位なパリピに昇華されていく。だからこそ、一緒にいて心地良い存在になり、人を寄せ付ける力があるのだと思う。
今回の嘘発見器でまさに、自分でさえも知らない自分を探すことができた。
なにより、嘘発見器で盛り上がったことで家族の絆を再確認できた。ような気がする。このコロナ禍の中、家で遊ぶにはうってつけの代物だった。身を削ってでも遊んでよかったと思う。