もしも次の曲がり角で、憧れの芸能人と遭遇したとしたら。あなたならどうしますか?
都心へ遊びや仕事で行ったりすると、芸人さんや俳優さんに出くわすことが、ごくたま〜にあります。
これまでに一番近い距離で遭遇したのは、俳優の西島秀俊さんでした。
サイン看板の仕事でミッドタウンの地下駐車場で作業をしていた時のこと。これから新作映画の舞台挨拶に向かわれるらしい西島秀俊さんが、到着した車から颯爽と降りてこられて、超〜至近距離ですれ違ったのだけど、内心で「うわぁああああっっ!えっえっえっ?…だよね?だよね?えっ?…だよね!?」と思いながら、一緒にいた職人のおじさんと西島秀俊さんとを交互に見ながら、ただアワアワするだけという、面白くもなんともない普通の結末で終わってしまいました。
一般の方は侵入できない状態での夜間作業だったので、そこにいたのはたったの数名。うす汚れた作業着のおばさん(わたし)とおじさんが、ポカーンと間抜け面して突っ立っている横を、大スターとそのお付きのものたちが華麗に通りすぎていく、というドラマでよく見るやつ。

エレベーターへと姿が見えなくなり、だだっ広く静かな地下駐車場に戻ったあと、ようやく口から溢れ出た「西島秀俊、顔ちっちゃーっ!!」ちっちゃ〜、ちっちゃ〜!…と、暗闇に虚しくコダマしていたのを思い出します。
それ以来、西島秀俊さんを画面や紙面で見かけるたびに、あの時ああしていれば、こうしていればと、自分の不甲斐なさ、無計画さを悔やんで、ハンカチの角を噛んでばかりの毎日です。
次にこんな機会があったら…。そして、もしも…もしも!その相手が高橋一生さんだったら、きっと悔やんでも悔やみきれない!
絶対にそんな思いはしたくないので、事前にしっかり対策を練って、日々いろいろな対応パターンを研究し、繰り返し練習しています。
とはいえ、高橋一生さん本人は、毎日が高橋一生。当然、出先で一般人と出くわして…なんてことはきっと日常茶飯事。
キャー!高橋一生ー!バタン!(失神)となっちゃう人、わたしのようにアワアワしちゃって何もできない人、うまく感情を制して「握手してください」「サインください」「写真撮ってください」と言ってくる人々などと、もう嫌というほど出くわしてきているはず。
そんな相手に、どう立ち回ればいいのか。彼の記憶に「わたし」という存在の爪痕を残すにはどうしたらいいのか?
2017年3月発売の『an・an〜官能の流儀〜』(高橋一生が女性と絡みあうヌードグラビアが14ページに渡って披露された)で危うく死にかけたこと。それを、長男からもらった手紙よりも丁重に梱包し宝箱に保管していること。そのサイコパスのような冷たい目と、鬼かわいいクシャクシャ笑顔とのギャップという名のハリセンで、毎度毎度しばき倒されていること。できるだけ健康で長生きして、元気でいてほしい。そして、ずっと幸せでいてほしいこと。
あなたを知ってから「演技」を「お芝居」と言うようになり、友人と話す時にいちいち訂正していて「ずっとめんどくさいと思っていた」と、つい先日、告白されたこと。同じ趣味を持ちたい!エア登山デートしたい!という想いから、一瞬だけ山ガールになったこと(1回で辞めた)。歴代の彼女から好きな女性のタイプを予測して、共演してきた女優陣を一人ずつ品定めしては呪っていること。わたし以外の女と付き合うなら、皇族の方か、浅田真央ちゃんにしてほしいこと。
伝えたいことは、まだまだたくさん、たくさんある。なんなら、このまま2万字くらい書ける。
なんとか…!なんとか仲良くなりたい。
次の曲がり角で出くわして、ぶつかってしまったとしよう。
プライベートでお買い物中に声をかけたりなんて、そんな無粋で申し訳ないこと、わたしにはできません。きっとうんざりされるだけだ。なので、そうではなくて、これは曲がり角でアクシデント的にぶつかってしまうような場合の話。
ー
目の前に現れる、凛とした美しい立ち姿。圧倒的な存在感。夢にまで見た本物の彼の瞳。そこに挟まりたいと願い続けたぷっくり涙袋。目尻のシワ。鼻の傷痕。端正で品のある顔立ちとはかけ離れた印象の、雄感むきだしの喉ぼとけ。バッキバキに浮いた下腕の血管。服の上からでも分かる鍛えられた胸板がすぐそこに。はぁ、うっとり…。いい匂いがするんだろうな…
ドクン、ドクン…!
普通ならどう考えても超パニック。西島秀俊以上に頭が真っ白になり、全身が硬直してしまうはず。
ところが、私はそんなときのための練習をすでにしている。落ち着け。100万回シュミレーションしていることを思い出せ!まずは、落ち着くんだ。
30年以上、わたしの支配のもとで破壊と再生を繰り返しながら共に生きてきた細胞たちだ。コントロールできるはず!全集中させ、ゾーンに入る。そうだ。いいぞ…何もかもが鮮明に、ゆっくりに見える。
大丈夫だ。やれる。練習通りにやるだけ。…スン…落ち着いた。
ぶつかってしまったわけだから、まずは謝罪。「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
きっと紳士的な返事をもらえるはず。
「僕は大丈夫です。こちらこそごめんなさい。あなたこそ、お怪我はないですか?」

あぁ……気絶しそう。この地球上に、こんなにも女性の心を癒す周波数が他にあるだろうか。全人類を魅了する低音ボイスが子宮に響く。耳から妊娠してもおかしくない。
…はっ!やめろ落ち着け。今はだめだ。戻ってこい。
「大丈夫です。本当に失礼しました…」サングラスの奥の目を見てわたしは何かに気づく。
「あっ!(あなたは…!)」
みなまで言わない。周りの人に気づかれたら大変だから。プライベート時の芸能人に対する気遣いが瞬時にできる素晴らしい人だ、と思わせる。そしてさりげなく微笑む。ここまでは完璧。
でも、これだけではきっと印象には残らない。これじゃあただの大きめのぶつかりおばさんだ(わたしは身長170cm)。
こんな体験、きっと今世では二度と来ない…一生に一度のチャンス。これでは西島秀俊が通り過ぎるのを硬直状態でやり過ごしてしまったのと、ほぼ同じようなもの。だめだ。もっと強烈なインパクトを与えないと!
しかし、わたしは本気だ。これは面白コラムのネタの一つなんかじゃない。本気で、現実的に考えている。コーヒーを彼のスーツにビシャっとぶっかけちゃって「きゃー、クリーニングさせてください!」後日、事務所に届けて…みたいな、そんなどこかで見かけるような面白ネタを書いてるんじゃないんだ!そんなに失礼で迷惑なこと、現実ではできるわけがない。ちなみに事務所の住所と電話番号は知ってます(マネージャーを募集していないか調べたことがある)。
わたしはいま、本気で、彼に出会った時のために真面目に対策を考えているのだ。
現実的にできる、かつ、曲がり角でぶつかっただけの、その一瞬で、このわたしの1997年から今に至るまでの、有り余る彼への想いを全て伝え、彼の記憶に爪痕を残すには…。
その作戦が…こうだ。
「あれっ、イヤホンがない!今ので落としちゃった」
「落としちゃった」は要練習。絶対に馬鹿っぽくあってはならない。あくまで自然に。
ぶつかった瞬間にイヤホンを落としてしまったらしい気立ての良さそうな一般女性。きっと優しい彼は、人目もはばからず一緒に探してくれるはず。すぐに見つかるイヤホン。
「…はっ!やばっ!すいません…!ありがとうございます」どこか慌てた様子でお礼をいうわたし。
…おや?
彼が拾ってわたしに手渡そうとするそのイヤホンから漏れ出る曲は…。
NE NE NE
素直なこころでひとつになれたら
NO NO NO
危ないね ぼくらは
もっともっと 求めあいたいよ
会いたいよ Every night
ハッ!と気づく彼。

「これ…僕の…」
…こくり…
なにも言わず、ただうなずき…片方のイヤホンをそっと彼に渡すわたし。
〜高橋一生「きみに会いたい-Dance with you-」〜
作詞、作曲、コーラス・宮本浩次
国宝級の表情筋をもつ彼。目を見開き、まさに100点満点の驚きの表情で、イヤホンとわたしの顔を交互にみる。
目はそらさない。今こそ、潤んだ瞳で全てを語れ!
………こくり。
何かを察した彼もうなずき、片イヤホンを装着。
さぁ、ここからサビよ!宮本浩次パートは、わたしが!
手で、SAYッ!と促す。
♪「オンリぃー、ラブ!ユー!エブリぃナイっ イエー!」
(ダンスダンスダンス…)(わたし)
「ホーミータイッ!アアー!ダンス ウィズユぅー!」
(ダンスダンスダンスダンスダンス…)(わたし)
「イエぇーッ!!」
コーラスに全ての想いを乗せるわたし!

それに呼応するように彼の気持ちもだんだん盛り上がってくる!
「オンリぃー、ラぁブッ!!ユぅー!!」
(君と踊りたぁい…)(わたし)
「エブリナァイっ オオゥッ!今宵、君とふたりで踊り明かしたいヤイヤ、ナイヤイヤー!エブリィナァァーーイッ!!」
「きみに会いたい!!」(ふたりで)
ズッ!ダダッ、ズッ、ダダッ…
おもむろにイヤホンを外し、わたしを見つめる一生…。
「…会いたかったのは…きみだっ!!」
ー
さぁ、これでプランは万全!
あとは、街のどこかの曲がり角で出くわすだけです。
さては…、次の曲がり角かな?ほら。どんとこい。高橋一生!!
誰かわたしをぶん殴ってください。
ーーおしまいーー
イラスト:斉藤ナミ