とにかく楽して映えグルメ -プリキュアと長州力からのサバトマト-

 

「食器は料理の着物である」

これは芸術家、そして美食家として知られる北大路魯山人の言葉である。食事風景を映えさせるのはなにも料理だけではない、その魅力を引き立て彩る食器も重要であるという意味だ。

あらゆる角度から隙あらば“映え”を狙う現代人としてこれは無視できない、ましてや食器を変えるだけで見栄えが向上するならば、楽して映えを狙うという主旨とも一致している。よりおいしくお寿司を食べるために自宅用の寿司桶と寿司下駄を購入し、スマホの画像フォルダが寿司まみれになった私にはわかる。同じ食事内容でもそのうつわによって印象が、ひいては食事の楽しさ、おいしさが変わってくるのだ。

ではこの世界に存在するあまたの食器、いったいどれを揃えれば良いのだろう。高価で煌びやかな食器を選べば良いのか、歴史的な価値もある古伊万里の食器でいい仕事をすれば良いのか。いや、それらも悪くは無いが無理に背伸びをする必要も無い、使う本人が気に入ったデザインや実用性に合わせて自分らしいものを選択すれば良いのだ。

 

今日は日曜日だが、休日というものは昼まで寝ていようという思いに反して目が覚めてしまうものだ。早起きとまでは言わないが、朝の時間になんとなく起きた私はテレビのリモコンに手を伸ばした。目当ての番組があるわけではない、ただ様々な情報が流れてくるテレビ番組というものは何も考えずに眺めていたくなるものだ。

それはもっともリラックスした自分らしい時間とも言えるだろう。テレビ画面には色も鮮やかな海、そして楽しそうな女の子たちが映っている、そうだ、楽しさとはこういうことだ。純粋な気持ちと秘められたパッションがトロピカルチェンジした私は転がるように部屋を飛び出し、自分らしく食器を選びまくった。

 

目次

トロピカるお茶碗プリキュア

ゴキゲン極まりない食卓

日曜の朝にテレビをみながら気に入った食器を考えていた結果こうなった。ご存じ『トロピカル〜ジュ!プリキュア』のお茶碗とコップ、それにおはしである。無骨などんぶりに料理をぶち込む無粋でむさくるしい食卓とはおさらば、トロピカルチェンジだ。

目の覚めるようなピンクのカラーリングが可愛らしく情熱的な食事を演出し、私は今プリキュアの方々と共にあると実感できる。毎週朝から日本の平和維持に勤める彼女たちへの感謝の気持ちがあふれてくる。なお私は一人暮らしのおじさんであり、子供はいない。

どうだいこの見事な食卓は、料理の着物はプリキュアだぜ。私はさっそく数少ない友人たちから賛美を浴びるべく、この充実感あふれる激映えトロピカる風景を共有した。

 

「プリキュア自体に罪はないけど、オマエの世代で言う食事の“映え”とは違うのでは?」

「そもそも大人用のサイズじゃないから使いにくそう」

「岡井はだらしなくて薄汚いおじさんなんだからむしろプリキュア的には悪役側(※やる気パワーを奪うという設定がある)」

 

大人の言葉でまぁまぁえぐられた、最後のはもうただの悪口だ、薄汚くなんかないやい。

しかしなるほど、考えてみれば映えには他人から見てうらやましい、真似してみたいと思わせるのも重要な要素。プリキュアは確かに魅力的極まりないのだが、それを囲むのが36歳の成人男性という事実は真似したいどころか触れてはいけない何かという感じがしてしまう。あとは単純にサイズ感なんかが違うため箸も短くて食べにくく、食器としての機能も噛み合わない。おじさんの普段使いとしてはあらゆる意味で大変危険なものだ。

 

名残惜しいが私はプリキュアと決別することにした。ここからはオトナの時間、セクシーでラグジュアリー、そしてハイソサエティーな食器を探すため再び街へ繰り出した。

 

皿という名のリングへ

「オトナの魅力を引き立てるセクシーな食器を探している」

そう言うとびっくりするくらい怪訝な顔をされた。まぁ20代なかばくらいの女性店員だったので無理もない、彼女にはまだオトナの魅力は早すぎたのだろう。ここはひとつ胸元がざっくり開いた派手なシャツから胸毛でもチラ見せして、イタリア仕込みのダンディな魅力を教えてあげるべきだろうか。そう考えていると奥から長州力に似た男性店長が出てきた、どういうものをお探しでと聞いてはいるが目が笑っていない、サソリ固めに入る時の目をしている。

イチかバチか店長にイタリアンダンディアピールをするべきだろうか。いやだめだ、万が一成功して長州力との濃厚もじゃもじゃ胸毛アダルトデスマッチが始まっても困る、考えてみればそもそも私はイタリアンダンディと何も関係無いし胸毛も無い。ここはもう小細工無用、リングに上がった新人レスラーのような気持ちでまっすぐぶつかるべきだ、そう思った私は料理を引き立てる皿が欲しいとストレートに伝えた。

意外なことに長州力は親切に相談に乗ってくれた。目についた食器を手にしてこれは在庫切れてますかとたずねると、切れてないですよと言ってくれた。いくつか候補はあったが、揃えるべきは料理を選ばず使いやすく、そして高級感も演出できるような食器だ。そうするとやはりこのあたりであろう。

 

何かが始まりそうな予感がする食器といえばコレ

 

ちゃんとした食事かつ高級感といえばフレンチコースのそれを思い浮かべる人は多いだろう。シンプルな白い皿、そして周囲を固めるナイフやフォーク、もはや完成された世界がここにあると言っても過言では無い。

食器の値段というものはピンキリだが、何も高級なもので揃える必要は無い。今はニトリや無印良品といった有名量販店で使いやすいものが気軽に購入可能であり、お買い求めいただきやすい価格で世界の完成をみることが可能だ。普段は適当などんぶりに米も肉も野菜もまとめて乗せているというあなたも、少し余裕がある時はいつもと違う食器で雰囲気を味わっていただきたい。

なによりちゃんとした雰囲気という武器を持つこの皿に乗せれば、どんなものでも高級料理に早変わりである。長州力に紹介してもらったこの皿、私は試しにビスコをリングインさせてみた。

おビスコ

なんということでしょう、さりげなく並べたビスコが持つ完成されたビジュアルは匠の仕事そのもの。値段的には30円程度のものだが、皿に乗せるだけでその100倍してもおかしくないと思える格調高い雰囲気だ。おいしくてつよくなるだけにとどまらずビジュアル的にも洗練、気のせいかパッケージでビスコを頬張る子供もいつもより凛々しくみえてくる。もうこれは今までのビスコではない、美味・強靭・華麗という完全体である。あとは「几帳面シェフによるグリコ産ビスケット乳酸菌クリームサンドの整列」とかそれっぽい名前を付けてやればいい、雰囲気で誤魔化せばだいたいなんとかなる。

どうだろう、料理の“映え”を演出する舞台装置の重要性を実感いただけただろうか。こうして私は魅力的な食器を手に入れ、また一つ楽して映えに近づいた。これに乗せればもう何でもいいまである。

 

ただでさえ最高の食器だが、それに最高の料理を乗せたらどうなるだろう。ポピュラーなお菓子でもあの映えっぷり、手の込んだ料理なんかを乗せた日にはまばゆい光を放って周囲を浄化、身体の悪い部分が全部治って宝くじに当選、おっぱいの大きい金髪美女も言い寄ってきて最終的に5Gに接続されたりするのではないだろうか。

なんにせよこれは試さねばなるまい。夢が広がりまくった私は今回も楽して映える料理を目指して手を抜きまくるので、みなさんも是非取り入れて欲しい。

 

鍋も包丁も使わないサバの冷製トマトソース

今回は食器選びにエネルギーを使ったので、できれば料理にはあまり手をかけたくないという一心から誕生したメニューをご紹介しよう。

それは魚料理からの一皿、『サバの冷製トマトソース』だ。サバは塩焼き、あるいは酢でしめたシメサバとして食卓に登場することが多い魚だが、トマトソースとも相性は良好。そして両者を合わせることでなんかちょっと手が込んだ感じを出せる、というかニンニクを利かせたトマトソースさえあれば大概何とかなる、フレンチスタイルの食器を使用していても私はイタリアンダンディへの感謝を忘れない。

 

そして今回用意した材料がこちら。

保存食コーナーの一角ではない

・サバの水煮(缶詰)

・トマトソース(瓶詰)

 

わずか2点、これだけである。余裕のある方は生サバから煮ても、ソース作りからはじめても問題はないが、今回はとにかく手を抜きたいという強い意思に則って缶詰と瓶詰を使う。両方とも一般的なスーパーで揃う材料であり、おそらく合わせて500円もしないだろう。ソースは常温でも問題無いが、より冷たく味わいたいならばあらかじめ冷蔵庫に入れておくといい。

 

ではさっそく作っていこう。

 

1.サバの水煮を取り出して皿に盛りつける

馬鹿にしてるのかと思われそうな工程だがそう書くしかない。缶詰からサバの身を取り出し、水気を切ってから皿に盛りつけるのだ。上手にお皿に移せるかな、などと言いながらお子様とチャレンジしても良いかもしれない。

プリキュアはサバともなかよし

なお今回は前述したプリキュアのおはしを使用した。今までは怖くてサバに触れなかったけど、プリキュアと一緒なら頑張れると思えた貴重な経験だ。

 

2.トマトソースをかける

やはり馬鹿にしてるだろうと確信を持たれたかもしれないが、実際そういう工程だからこう書くしかない。瓶からスプーン等で適当にすくって好みの量を皿の上のサバにかけまくってほしい。

プリキュアのスプーンは無かった

青魚のサバと赤いトマトソースで素敵なコントラストねなどと言っても良いかもしれないが、残念ながら実際のサバはそんなに青くない。

 

3.完成

こんなに簡単でいいのかと疑問を持たれるかもしれないが、ここで完成である。自信をもってほしい、すぐに人を疑うのはきみの悪いクセだ。

パンでも添えればもうしっかり食事として成り立つ

調理工程としては缶詰と瓶詰を合わせて皿にぶち込んだだけという現代料理界に一石を投じるゲットワイルドだが、しっかりとした食器を用意することで見事成立している、それどころか料理と食器が混然一体となって美しく調和がとれていると言ってもいい。みなさんも実際に皿を用意していただきどんな料理でも受け止められるタフさを感じて欲しいし、アスファルトタイヤを切りつけながら暗闇走り抜けて欲しい。

 

もちろん味の方も申し分ない、脂ののったサバにフレッシュなトマトソースがからんで最高だ。一切火を使っていないので手軽に調理できるし暑い夏にもぴったり、好みの野菜を加えたり、温めて熱々を食べるのもいいだろう。SNSで披露すれば異様に手際よく魚料理を完成させる料理上手だと思わせることが可能であり、家庭においても「そして完成したものがこちらに」と瞬時に一品増やすリアル3分クッキングが実現するだろう。

 

プリキュアもプロレスもSNSもみんな闘ってるしだいたい同じ

ここまで読んでいただいた方にとっては食器が料理の着物であることはもはや明白だろう。料理を一層輝かせ引き立てるものであり、楽して映えを狙ってSNS上でマウントをとりまくるためにも食器を選ぶべきということが理解いただけたと思う。

プリキュアが大好きな女児からプロレスに熱狂したおじさんまで、幅広い層に密接なつながりをみせる食器の世界、みなさんも今一度考えてみてはいかがだろうか。

 

完成に至るまでの経緯を記すとタグ荒らしそのものだ