2021年11月、とある3人組のバンドが、ファーストシングル「月影 – BAND ON A MOON Ver.」をリリースしました。取材当時、リリースから約2か月にも関わらず、YouTubeで公開されたミュージックビデオの再生回数は4,000回以上、寄せられたコメントも100件を超えました。
活動開始直後から秘かに人気を博すバンド、「BAND ON A MOON」。ボーカルのRachel Moonさん(24)、ギタリスト兼ボーカルのShinさん(24)、キーボーディストのNozomiさん(26)の3名で活動しています。今回は、彼らに結成の背景や、今後の活動について伺いました。
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きっかけは熱烈なラブコール
彼らのファーストシングルは、「- BAND ON A MOON Ver.」と題されるように、一から作った曲ではありませんでした。もともとは、ギター・ボーカルを務めるShinさんのソロ曲だったのです。
Shinさんは、幼い頃から歌うことが好きで、中学3年生のときにはじめて曲作りをしたといいます。なかなか自分で納得のいく楽曲が作り出せなかったそうですが、2020年春頃、はじめて「これは良さそうだ」と思えるようなメロディーが出てきました。それから1年弱かけて音楽と歌詞を作りあげ、完成したのが今回の「月影」という曲でした。
実は、キーボーディストを務めるNozomiさんは、Shinさんのお姉さん。この頃、音楽活動はしておらずNPO職員として働いていたNozomiさんは、自身のSNSで、弟Shinさんがシンガーソングライターとして曲を出したことを伝えました。すると、Nozomiさんの旧来の友人であったRachelさんが曲を聴き、心を打たれ、Shinさんにラブコールを送ります。それが、「BAND ON A MOON」の始まりでした。
Rachelさんは、指揮や声楽の修士号を取得した音楽好きな両親の元で育ち、昔から歌うことが好きな女の子でした。小学生の頃から自身で作曲するなど、日常的に音楽にふれるなかで、次第に「いつかこれを仕事にしていきたい」という想いが募っていったといいます。知り合いのジャズミュージシャンのライブにも出演するなど、音楽活動の幅を広げていきました。
そのなかで、たまたまShinさんの楽曲を聴いたRachelさんは、感銘を受けると同時に、「この人と一緒に音楽を作りたい」と思ったそう。
「Shinくんの音楽を聴いて、曲の雰囲気が自分の好みに合ったことと、もうひとつ、これはすごく大切なことだと思っていますが、絶対いい人だと思って。もともと友人だったのんちゃん (Nozomiさん) の弟なので、きっと友達になれるという安心感がありました。やっぱり音楽にはその人の人間性が表れるので、尊敬できる人と一緒に音楽を作りたいと思っていました」
熱烈なラブコールを受けたShinさんは、Nozomiさんの引き合わせでRachelさんと会い、すぐに意気投合。その日に、お互いに音楽を奏で、一緒にバンドを組もうと手を取り合いました。
以前から「音楽を仕事にしていきたい」という意思があった2人。せっかくやるならYouTubeなどに曲を載せるだけではなく、日常的に聴いてもらえるようなサブスク配信まで行いたいと思っていたといいます。
こうして、バンドの結成、楽曲リリースへ向けて動き出しました。
同じ曲だけれど、違う曲
バンドが始動してから数週後、Rachelさんによって、バンド名の検討が始まりました。
ご両親が韓国人で、大学入学までカナダに住んでいた、韓国系カナダ人のRachelさん。本名は「Rachel Moon」と“月”が入るお名前です。バンド結成のきっかけとなった曲「月影」と相まって、漠然と思い入れのある“月/Moon”という単語を入れたいなと考えていました。
いくつか候補があったなかで、「月の上でギターを持って歌っている」というイメージをしやすかった「BAND ON A MOON」で活動していくことに。2021年4月のことでした。
その後、ファーストシングルはRachelさんが歌いたいと願った「月影」をカバーすることに決まりました。ボーカルに女性が加わり、デュエットとなるため、曲を練り直し、レコーディングやミュージックビデオの作成に励みました。
その傍ら、YouTubeではトレンド曲をカバーし、活動の幅を広げていきました。当初はバンドに入らず近くで見守る予定だったNozomiさんですが、カバー曲の演奏でキーボードパートが必要となったことをきっかけに、キーボード担当としてバンドへ加入。絵が得意なことも活かしてシングルのジャケットやミュージックビデオの制作も務め、3人の活動が始まりました。
それから、半年強かけて、2021年11月に「月影 -BAND ON A MOON ver.」をリリースします。
「月影」の作詞作曲者であるShinさんは、自分の経験や想像を描写するように曲を作るといいます。中学生の頃、塾帰りの公園で聞いた木々のざわめきや、木々の間から灯る月明り、夜に見た花火に照らされた友人の顔……そういった景色を浮かべながら「月影」を作ったそうです。
しかし、バンドで再度曲を作り上げる際には、2人には一切作り手のイメージを言わなかったそうです。
「自分で解釈して歌ってもらえればいいかなと思っていました。ソロ曲とタイトルも歌詞は同じだけど、僕は別の曲だと思っていて。商標の関係で『-BAND ON A MOON Ver.』と入れなければいけなかったけれど、本当は入れたくなかったくらいでした」
彼らに「月」のイメージを聞いたとき、3人とも口を揃えて、太陽や星と比べて神聖で癒される、特別なイメージがあると語っていました。「わたしたちの特別な月」という想いを込め、バンド名を「BAND ON A MOON」と、特定する「THE」を用いずに表現したそうです。
今回の「月影」も、側から見れば同じタイトル・同じ歌詞で同じ曲に見えるかもしれません。しかし、彼らにとって、Shinさんのソロ曲「月影」も、バンドの「月影」も、それぞれに特別な想いがある曲なのでした。
3人で広げる音楽の幅
活動を続けるうち、彼らのなかで自然と、「自分もアレンジができるようになりたい」「作詞作曲をできるようになりたい」と、スキルアップの欲求が出てきました。Nozomiさんはこう語ります。
「わたしたちは、歌える人やギターを弾ける人がいるだけではなくて、楽曲を作り上げられる人や、ジャケットの絵を描ける人がいて、自分たちの力で曲づくりのほとんどを完結できることが強みだと思っています。でも、それぞれの力に頼り切るのではなくて、自分自身も作詞作曲ができるようになったりとか、3人ともできることを増やとしていくとより音楽の幅が広がるのかな、と思っています」
Shinさんも、「ソロではできないことを楽しみたい」、Rachelさんも「ひとりで作詞作曲するときも、2人がいると思うと頑張れる」と3人で音楽を作り上げていくことに楽しみや癒しを覚えているようでした。
結果的に誰かに癒しを与えられる曲が作れたら嬉しいけれど、そこを1番の目的にはしていない3人。それでも、楽しみ、互いに癒されながら作られる音楽だからこそ、聴くわたしたちは癒されるのでしょう。彼らが作るこれからの音楽が楽しみです。
YouTube 「月影 – BAND ON A MOON Ver.」
Instagram BAND ON A MOON
(編集:中村洋太)