「出会った人にいい影響を与えたい」ベトナムでコスメブランドを起業した和田良子の挑戦

良子さんアイキャッチ

ベトナム中部の都市、ダナン。ベトナム戦争時にアメリカ軍の拠点となっていたダナンは被害が大きく、戦後も街は荒れていた。しかし、15年ほど前からリゾート開発が進んだことで観光業が盛り上がってきている。

「ベトナム第三の都市」と呼ばれる人気のリゾート地、ダナンで起業した日本人がいる。2017年にオーガニックコスメブランド「taran.」を立ち上げた和田良子(Danang Ryoko)さんだ。

taran.の看板商品はタマヌオイルやシュガースクラブ。安全で肌に優しいオーガニックコスメは、雑誌『FUDGE』でも取り上げられたほど。どうして良子さんは異国の地ダナンで、コスメブランドを立ち上げたのだろうか。

目次

きっかけはマッサージオイル

ホイアン旧市街にある現在のtaran.

北海道で生まれ育った良子さんは、大学卒業後、チーズケーキで有名な「LeTAO(ルタオ)」を展開する地元の企業に就職。そして、「従業員一人一人が経営者意識を持つこと」という会社の教えから、いつしか起業する夢を持つようになる。

社会人4年目となった2015年、店長として仕事に邁進していた良子さんは友人から誘われダナンへ旅行することに。その際、ダナンで訪れたマッサージ店で施術用オイルの品質に感動する。自身も含め家族全員がアトピー性皮膚炎に悩まされてきた良子さんにとって、運命的な出会いだった。

しかし、旅行中にそのオイルを探し求めるも、どこにも売っていない。その瞬間、以前から抱いていた起業への想いがリンクした。偶然出会ったオイル、そして観光地としての魅力を感じたダナン。これらの巡り合わせに運命を感じ、自分のコスメブランドをダナンで作ろうと決意した。思い立ったら行動が早い。帰国後わずか一ヵ月半で、良子さんは会社に退職を申し出た。

喜びも挫折も味わう起業

品質の高さが評判の看板商品「タマヌオイル」のボトルが奥に並ぶ

ダナンで起業することを決めるもはじめはどうしていいかわからず、悩んだ良子さんはまず現地の企業で働くことを決める。働きながらベトナムの法律などを学んで起業準備をし、ついに2017年12月、ダナンにtaran.をオープンした。

コスメ商品はすべてベトナムの特産物から考える。「ベトナムは南北に長いので、地域によって採れる植物が違うんです。スタッフの力を借りて特産物を調べ、栽培農家さんにアポイントを取って現地に足を運びます。どういう場所でどんな風に作られているのかを知りたいので」。こだわり抜いた質の高い商品は、日本からの注文も多い。

その反面、移住して5年経った今でも日本との違いに悩まされる。「店内の内装がリクエスト通りにいかないなど、悩みは無限にありますね」

“人生ネタ作り”を座右の銘とする良子さんに起業してからの一番のネタを尋ねると、「スタッフに売上金を盗まれたこと!」と笑いながら語った。「心から慕っていたスタッフだったので本当にショックでしたね……。これからそのスタッフにはもっと恩返ししたいと思っていたので」

警察に助けを求めようした。しかし盗まれたお金が仮に返ってきたとしても半分は警察に取られ、残りの半分が手元に戻るとも限らないと知りがく然とする。ここでも日本との違いを痛感した。

一方、ベトナムの良さは何だろうか?「リラックスして生きている人が多いところ。生きぬく強さや困っている人を助ける優しさも感じますね」。自身のバイク事故の時も近くの人たちがすぐに駆け寄って助けてくれたという。

大量に廃棄した商品

ダナンの旧taran.

2020年春、新型コロナウイルス感染症の流行により店舗の休業を余儀なくされた。「突然時間ができたから、何か新しいことを始めてみたいと思って。ベトナムの生活を知ることができるYouTubeチャンネルを作りました。編集作業ができるようになったので、挑戦してみてよかったです」。現在チャンネル登録者数は約6500人にまで増えた。(2021年11月現在)

休業が長引き帰国やオンライン販売のみにすることも考えたが、諦めずに店舗を存続しようと決断。ところがダナン市街地は家賃が高く、休業した状態で店舗維持は難しかった。そこで、経営していた店舗を閉店し、ダナンから車で30分ほど離れたホイアンでtaran.を再スタートすることに。

「ゴールデンウィークに向けて特注した商品や梱包材を大量に廃棄することになってしまって。処分する時は本当に心が痛みました」。それ以後は、意味のある商品を作りたいと考えるようになり、商品の容器や包装は再利用できるものに切り替えた。

ダナンにいた時は、taran.の商品を大丸などの百貨店に並べたいと思っていました。ブランドを大きくして多くの人に使ってもらいたくて。でも百貨店に商品を並べるのも、必要のない梱包をするのにも莫大なお金がかかるんです。それならそのお金でよりいい成分を使って質の高いコスメを作って、taran.を好きな人に商品を使ってもらえればいいかな、と思うようになりました。もしコロナがなかったらこのようにブランドのあり方を見直すこともなかったかもしれません」

旧市街が世界遺産にも登録されるホイアンは、街並みや自然を保護する意識が地域に根付いていて、オーガニック農家も多いという。今では自然に囲まれたホイアンでゆったりと営業する方が自分にあっていると感じるようになった。

出会った人にいい影響を与えたい

一番左が良子さん。抱えているのは愛犬のきなこ

20代の頃は人生にはミッションがあると思って生きてきた。当時は勢いがあったからこそ挫折も失敗も味わえたと語る。しかし今では立川談志さんの「人生暇潰し」という感覚がしっくりきているそう。「『人生暇潰し』って思ったらなんでも挑戦できる気がして(笑)」

生きる目的は「出会った人にいい影響を与えること」。5年経った今でも起業した選択がよかったかはわからないが、「十分すぎるほど今が幸せ」と笑顔で語る。

「どんなことでもやってよかったかどうか、死ぬ時までわからない。そう思ったら何にでも挑戦できると思います。興味を持ったことはやった方がいい。何もしなかったら何も変わらないですから。死ぬ時に思い出すのはきっと経験や体験、出会いなどの記憶だと思うんですよね」

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(編集:中村洋太)