飲食に使う道具は多種多様に存在し、日本においては箸やスプーン、フォークが多く使用されている。それらは食事シーンを便利にする道具であり、多くのメニューに使用される汎用性の高さを持つものが多い一方、飲むという一芸に特化したストローのようなものも存在する。
ストローは飲み物をスマートに飲みたいという需要に応える画期的なものだが、飲食全般において考えると液体を吸引すること以外はてんで駄目な存在だとも言える。主食である米やパン、麺といったものを食べるのには適しておらず、そうした固形物に対してストローが持つ吸引スタイルはミスマッチ。普段そう意識することは無いかもしれないが、飲み物、それも冷たいドリンク類というニッチな対象にのみ強さを発揮するのがストローである。まるで普段は何をやらせても駄目だけど射撃とあやとりだけは得意なのび太くんのようだ。
ごきげんよう、岡井です。これまでぶんしょう社において様々な食の可能性を探求してきましたが、今回はストローについて考えていくことにします。
さて、冒頭にお話ししたストローについて。そのなかにも蛇腹状になって曲げられるものや、かき氷をすくうためにスプーン状になったりとバリエーションがあるが、昨今界隈を震撼させたストローの存在をご存じだろうか。
タピオカストローである。
もともと活かされる対象が狭かったストローにあって、さらに対象を狭くしたタピオカドリンク特効型のストローだ。タピオカを吸引するために口径を大きくしたその姿は通常のドリンクを飲むにはやや使いづらく、まさにタピオカのために存在するストロー。得意だからと射撃に特化させ続けた結果、固定砲台へと改造されてしまったのび太くんのような、哀しきキメラとも思えてくるストロー界のアルケミストである。
少し前の日本は空前のタピオカブーム、まさにこの世の春を謳歌したであろうこのストローだが、現在ではどうなっているか。もちろん変わらず購入することが可能であり、今日も頼もしく「タピオカストロー」と大きな文字で書かれたパッケージで大量陳列されている。
しかし裏をかえせばそれだけ在庫があるという意味にもなる。さらに2021年現在は多くのタピオカ店は休業・閉店しており、活躍の場が減少傾向であることは明らかだ。
よくみるとパッケージに「タピオカに」「スムージーに」と書かれているが、その横の空白が気になる、あとふたつくらい「◯◯に」と用途を提案してもよさそうなスペースだ。もしやこれはタピオカストローに他の用途が思いつかなかった事のあらわれではないだろうか。苦し紛れに「『キン肉マン』のミスターカーメン(※)コスプレに」とか書かれていないところに担当者の良心が感じられる。
※漫画『キン肉マン』に登場する超人、巨大なストローを使い対戦相手の水分を吸い取る必殺技を持つ。
しかしどうだろう、タピオカストローの可能性に人は挑戦したと言えるのだろうか。本当にタピオカとスムージーくらいしか適した用途はないのか。このままブーム終焉とともに忘れられる存在になっては惜しいと感じた私は、タピオカストローが持つ可能性を探ることにした。
目次
コーラを吸う
まずは様子見として、お馴染みのコーラをタピオカストローで飲んでみる。ちなみに有名なマクドナルドは飲んだときに最もおいしく感じられるようにストローの口径を調整しているらしいので、さらなる大口径を持つこのストローならばよりダイナミックにコーラを味わえるのではないだろうか。
なるほど、たしかに口の中に一気に流れ込んでくる豪快さと爽快感、口いっぱいに広がる味わいはまた格別。しかし不便とまでは言わないものの、通常のストローと比較すると吸引力が要るし、ちょっと吸ったら一気に口の中がいっぱいになって微調整が難しい。いつもの感覚で吸引すると大量のコーラが鉄砲水のように押し寄せて脳がバグるし、炭酸が苦手な人は少し注意が必要だ。
少々感覚は異なるが普通に飲める、ただタピオカストローの強みが活かされているかといえばそこはちょっと弱いかもしれない。
プリンを吸う
コーラはほんの小手調べ、正直試す前からいけると予想はついていた。それが液体であるかぎりはタピオカドリンクの派生でしかなく、新たな可能性というよりはあくまでバリエーションの一つとするべきだ。そこでこのプリンの登場である、飲み物カテゴリからの脱却、タピオカストロー新展開の始まりだ。
プリンを容器にプッチンして移し替えたらレッツ吸引。
ん、んんん……!!
結論から言うと問題なく吸引できる。飲むゼリーなんかも既に存在するので違和感もあまりなく、タピオカストローの活用方法としては十分だ。
ただ同時に吸引という食事方法は危険だと感じた。なにせ用意したカップにはグリコのプッチンプリン三個分を投入したが、5秒くらいで一気に吸い終えてしまった、これはカロリー瞬間摂取大会があれば相当上位にくるはずだ。プリンを吸う生活を取り入れた場合、ものすごく効率的にエネルギーを吸収してとんでもない勢いで太ることは明白。オイオイオイ死ぬわアイツと言われるに違いない。
アスリートならばともかく私はインドア派のおっさんである、プリンは食後のデザートなんかで楽しんで味わいたい。ストロープリンのポテンシャルは相当高いが、禁忌とすべき組み合わせかもしれない、はちゃめちゃに太りそう。
ポテトサラダを吸う
水分が多い食事系のメニューは一気に吸い込みすぎて危険なのかもしれない、そう考えた私はポテトサラダを選択した。言ってみればジャガイモのスムージーみたいなものだし。通常のストローであれば難しいポテトサラダもタピオカストローならばあるいは、食事に活かされる新定番となるか。
容器に移し替えておもいきり吸い込んでやりましょう。
……むっ、これは手ごわい。全然吸えない。
いやあきらめるな、タピオカストローを救うためだ、キミが笑ってくれるなら私は悪魔にもダイソンにもなる。
………ッ! ………ッ!
……無理だ。
吸えない。掃除機の気持ちになって酸欠寸前まで吸引してみたが一向に動かない。
真面目な話をするとストローが飲み物を吸い上げる動きというのは、吸引によってストロー内の気圧が下がることで起こる現象である。液状ではないポテトサラダはわずかな隙間から空気が漏れてしまうので効率的に気圧を下げられず、やはりストローで固形物は難しいかったのである。
食事系という活路を見出したかと思ったが躓いてしまった、しかし私はあきらめない。
麻婆豆腐を吸う
お次はこれである。豆腐という比較的タピオカに近い柔らかさの食材を汁気たっぷりに煮たこの料理であれば、タピオカストローとの相性も良いのではと考えられる。長い歴史を持つ中華料理もストロー吸引という食事方法はそうあるまい、新たな中華の1ページに期待がかかる。
ドリンク容器に入れたところ、パッと見キャラメル風味の新しいドリンクのように思えてきた。マーボドゥ・フラペチーノとか名付けてコーヒー店に並べてもよさそうだ。
食事前の演出は上々、さてその吸い心地やいかに。
あっ、これは……
いい、いいぞ!
タピオカストローの太さが活かされており、豆腐とひき肉がバランスよく口に運ばれてくる。豆腐自体もストローを通る過程でほどよくクラッシュされており辛さとの調和がとれている。えっ、これはマジで麻婆豆腐の新たなスタイルなのでは……? こうしちゃいられねぇ!!
整いました、米を食べながら麻婆豆腐を吸うという定食スタイルも可能。何も知らない人がみると甘いドリンクを飲みながら米を食う人みたいになってビビらせることもできる。
タピオカストローの可能性をここに発見した。中華料理店のテイクアウトにも是非取り入れていただきたい。代官山あたりの街を歩きながら麻婆豆腐を吸引することがオシャレとされる世の中は目の前だ。
カップヌードルを吸う
麻婆豆腐がいけるならラーメンもいけるだろう。中華料理との親和性を見出した私はさっそく次の手を打った。今回使用するのは日清のカップヌードル、スープにからんだ細い麺は吸引に適しているのではないかという仮説と、全体サイズとしても手ごろであるとの判断である。
それではさっそくお湯を注いで準備していこう。現在ではフタ部分が愛らしいネコチャンになっており期待を高めてくれる。
では3分が経過したところでさっそく容器を移し替えて……おや? ちょっとこれ……
こうじゃない? これがタピオカストローヌードルスタイルじゃない? 略してTSNSじゃない? 片手サイズのカップにそびえ立つタピオカストロー、まるではじめからこうするのが正しいとも思えるいでたち。考えてみればつい先ほど愛らしいネコチャンと称したフタを思いっきり貫通させているが、そんなことは些末な問題だ。麻婆豆腐に続いて南青山あたりでヌードルもオシャレに吸えそうだ。
俄然気持ちが盛り上がった私はさっそく吸引を試みた。
──ッッ!?
あっっ…………つい!!
えっなにコレ、一瞬で口の中全部ヤケドした。マグマか何か吸引した? 味がどうとかそういう次元じゃない、熱いという感覚しか生まれてこない。タピオカストローに対する情熱の熱さとかじゃなく物理的に超熱い。
……少し落ち着いたので整理する。我々は普段ラーメンを食べる時、箸で持ち上げ、レンゲですくい、時にはフーフーとさましてから口に運ぶ。そう、容器から口に入れるまでの間に外気と触れて適温に調整するアクションが自然とおこなわれていた。しかし今回はフタを閉めたまま直接ストローをブッ刺して吸引したため、熱々のお湯が冷めることなく喉奥にダイレクトアタックを仕掛けてきたという構図である。外気に触れずに調理されたラーメンはもはや兵器、そして私は平気じゃないといったところか、やかましいわ。
なお少し冷ましてから検証したところ、麺料理は麺が互いに絡み合っているため吸い込むのは意外に難しく、先行してスープのみが口の中に入りまくるためかなりバランスが悪いことも判明した。麺1本吸い込む前に口いっぱいにスープが充満するしょっぱさの大洪水。なので最終的には普通に箸で食べた。
見境なく吸ってはいけないけど
今回の検証は以上である。可能性をあきらめてはいけない、食には無限の可能性があるということを再認識し、タピオカストローにはタピオカとスムージー以外にも可能性を秘めていることが明らかになった。そしてカップラーメンにストローを刺して吸引することが大変危険な行為であることも身をもって理解できた。
余談だが『キン肉マン』のミスターカーメンも吸っちゃいけない超人の血を吸おうとして致命傷を負うエピソードがある。そう、吸える吸えないの見極めは時に命すら左右するのである。食の可能性を追求するには先の展開を見極め正しい判断をするレフェリングが肝要。私は今後も隙を見ては様々な食材を吸っていこうと思う。