こんにちは。
エンタメ系ライターをしています、Sachi.です。
突然ですが、皆さんはTEAM NACSってご存じでしょうか。
TEAM NACSは、北海道出身の俳優さんたち5人による演劇ユニットで、大泉洋さん、安田顕さん、森崎博之さん、戸次重幸さん、音尾琢真さんが所属しています。
個々での活躍が目覚ましい彼らですが、近年でも2-3年に1度程度のペースでTEAM NACSとしても公演を重ねています。
目次
「TEAM NACSの作品を紹介したい!!! 紹介させろ!!」
2021年に25周年を迎えたTEAM NACS。執筆時点(2021年6月)での総公演数は17本。そのうち、ソフト化されている作品は、TEAM NACSが北海道以外の場所でも公演を打つようになった「LOOSER〜失い続けてしまうアルバム」から「PARAMUSHIR〜信じ続けた士魂の旗を掲げて」までの7本です。
しかし、7本もあるといわれると、どの作品から見たらいいか迷いますよね。
そこで今回、この場をお借りしてTEAM NACSの15年来のファンである私が、僭越ながら各作品のおすすめレビューをさせていただきます。
ただ、そのまま公演順にレビューしても面白くないなと思い、今回は6つのタイプに分けてみました。
ご自身の好みや気になるタイプに合わせてご覧ください!
(※レビューは、それぞれ単独で読んでいただくことを想定しているため、一部重複した記載があります。ご了承ください)
おすすめタイプ
・ド派手な演目が好き→A、D ・心温まる作品が好き→B、C ・サスペンスが好き→G ・歴史の“もしも”を描いた作品が好き→A、E ・戦争作品など重厚な作品が好き→B、F ・ホームドラマが好き→C |
A:戦国時代の“もしも”を描いた総出演者数20名のド派手な時代劇作品「WARRIOR〜唄い続ける侍ロマン」
作品名:WARRIOR〜唄い続ける侍ロマン 脚本:宇田学 演出:森崎博之 出演:TEAM NACS、飯田隆裕(スパイスガーデン)、井上和茂、梅田喬、大野朱美、栗原寛孝(スパイスガーデン)、黒岩司、後藤祐香、菅原健志、田中温子、新田健太、広瀬諒人、松尾英太郎(スパイスガーデン)、宮川康裕、山中雄輔(スパイスガーデン)、和田成正(スパイスガーデン) |
あらすじ
物語は、織田信長(戸次さん)が今川義元へ攻め入った「桶狭間の戦い」からスタートします。 雨を味方につけ、今川本陣へと着実に進んでいく織田軍。その中で、一瞬の隙をつかれた徳川家康(安田さん)が織田軍に討たれてしまいます。家康に利用価値を見出していた信長は悪態をつきながらも、誰にも見られていないことを知り、その死を隠すことにします。一方、桶狭間の合戦場でがむしゃらに筆を走らせる1人の絵描き、又兵衛(安田さん/2役)。無我夢中になって絵を描いていた矢先に、何者かに襲われてしまいます。安土城で目を覚ました又兵衛は、訳も分からないまま紋付き袴に着替えさせられ、織田信長の面前に連れ出されます。 そこで信長は家康に瓜二つの又兵衛に家康の身代わりになるよう命令を出します。そして、この日から又兵衛は戦国の大きな戦乱に飲まれていくことになります。 |
「WARRIOR〜唄い続ける侍ロマン」(以下WARRIOR)は、2012年に上演された作品。
北海道外での上演スタイルは「TEAM NACSメンバーのみ、脚本・演出を森崎さんが担当する」というのが定石(一部例外あり)だったのですが、「WARRIOR」は初めて脚本を外部に依頼し、客演を入れた公演です。
劇中には織田信長や徳川家康などの有名武将が登場し、通説や史実とされる話を交えながら“絵描きの又兵衛”の視点から見た戦国時代を描いています。また、終盤では「本能寺の変」について独自の解釈で切り込んでおり、歴史好きな方もそうでない方も楽しめます。
徳川家康として生きることを命じられた又兵衛の苦悩や葛藤を熱演する安田さんはもちろん、後の天下人にして一筋ではいかない豊臣秀吉を演じる音尾さんにも注目です。
出演人数も多く、殺陣シーンもふんだんに盛り込まれているため、ド派手な活劇が好きな人に特におすすめの作品です。
B:膨大なキャラクターを“メンバーのみ”で演じ分け。1人の男にまつわる80年にも及ぶ物語「HONOR〜守り続けた痛みと共に」
作品名:HONOR〜守り続けた痛みと共に 脚本:森崎博之 演出:森崎博之 出演:TEAM NACS |
あらすじ
北海道のある地方にある“恵織村”。村には古くから伝わる“神木”がありました。 村では毎年神木を祀って祭を開催していたのですが、統廃合が決まり、今年が最後になってしまいました。村長の門田(森崎さん)をはじめ、年老いた村人たちが太鼓を叩き、盛大に祭を締めくくります。 しかし、ふと気付いてみると奏者は4人しかいないはずなのに、太鼓の数が1つ多い。不思議に思い門田が太鼓を片付けようとすると、ボケの症状が出ている光太(音尾さん)が虚空を見つめ「五作さん」と呟き始めます。五作(安田さん)というのは、もう50年も前に死んでしまった村人の名前。そのため、当然いるはずもないのですが、なおも光太は名前を呼び続け、太鼓を片付けることを嫌がります。やがて4人は、村と神木と共に生きた五作と出会った子どものころのことを思い返すことになりました。 |
「HONOR〜守り続けた痛みと共に」(以下HONOR)は、2007年に上演された作品。
見どころは何といっても、五作を中心とした総勢13人のキャラクターを演じ分ける卓越した演技力です。
五作は物語を通して安田さんが演じているのですが、あらすじに出てきた光太の祖父を戸次さんが演じていたり、五作が子どものころに密かに思いを寄せていた女性を音尾さんが演じているなど非常に複雑。
しかし、複雑さ故に圧倒的な演じ分けを楽しめる作品にもなっています。
このように入れ代わり立ち代わりでキャラクターを演じるスタイルは、それまでのTEAM NACS公演でもおなじみのスタイルなのですが、「HONOR」は群を抜いてキャラクター数が多い公演です。
また「HONOR」は、舞台で使用された楽曲のサウンドトラックも非常に人気があります。
制作を手掛けたのは、ポルノグラフィティのサポートメンバーなどで活躍しているバイオリニストのNAOTOさん。NAOTOさんは、2005年から本公演の音楽を担当しています。
サウンドトラックには、同じテーマを使用した曲がいくつも存在しているのですが、非常に印象的で効果的に使用されているものが多く、音楽を聞くだけでもパッと場面が浮かびます。
Spotifyなどの主要配信サービスで「TEAM NACS」と検索すると「HONOR」のサウンドトラックを聞くことができますのでそちらも是非(「HONOR」以外のサウンドトラックも聞くことができます)
C:どこにでもいそうな兄弟の、ある日の話。「下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。」
作品名:下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。 脚本:大泉洋 演出:大泉洋 出演:TEAM NACS |
あらすじ
下荒井家の両親の10年祭(神道の霊祭)を迎え、実家で楽器店を経営する長男の大造(森崎さん)の元に、兄弟が集まります。 実家には他に引きこもりの四男、健二(大泉さん)がおり、三男の剛助(安田さん)は妻を、末っ子の修一(戸次さん)は婚約者を連れて帰ってきます。そこへ、10年前に音信不通になってしまった次男の大洋(音尾さん)がひょっこり帰ってきたことにより、兄弟たちはある大トラブルに巻き込まれてしまうことになります……。 |
「下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。」は、2009年に上演された作品。
北海道外で公演を打つようになってから、初めて森崎さん以外のメンバーが脚本演出を担当したことでも話題になりました。
この作品の見どころの1つに「女性と男性の演じ分け」があります。TEAM NACSのそれまでの公演では主に戸次さん、音尾さんが女性役を担当することが多く、本作でもそれぞれ女性役を担当しています。特に、音尾さんの男性との演じ分けは必見です。
大泉さんは、以前にも北海道のバラエティ番組でホームドラマの脚本を担当したことがあり、今回のようなテイストに定評があります。
また、ファンの間では大泉さんのメンバー愛が強いことでも有名で、登場するどのキャラクターにも愛すべきところがあるのがポイントです。
D:ベートーヴェンの半生を元にしたオリジナル作品。実は歌が上手い大泉さんの歌声は必聴「COMPOSER〜響き続ける旋律の調べ」
作品名:COMPOSER〜響き続ける旋律の調べ 脚本:森崎博之 演出:森崎博之 出演:TEAM NACS |
あらすじ
音楽家のベートーヴェンことルイ(大泉さん)は、若くして亡くなった弟の息子、カール(音尾さん)を我が子同然に育てていました。カールの母親は健在だったのですが、娼婦をしていたという身の上に嫌悪を抱き、半ば強引にカールを自身の元においていました。
ルイの恩師の元で音楽の勉強に励むカールの前に、若き音楽家のシューベルトことフランツ(戸次さん)が友達になろうと近寄ってきます。フランツは、偉大な父を持つカールにすり寄ることで、自身の躍進をもくろんでいたのです。 ある日、フランツはカールに頼み込み、念願かなってルイに自身の楽曲を見てもらいます。カールは結果は上々だと伝えますが、その姿を闇の中から見ていたある偉大な音楽家の亡霊が、本当は罵倒していたという真実を伝えます。 |
「COMPOSER〜響き続ける旋律の調べ」(以下COMPOSER)は、2005年に上演された作品。
前年に上演された「LOOSER〜失い続けてしまうアルバム」同様、史実に基づいた部分とオリジナルストーリーの融合が魅力の作品です。
音楽家たちの物語のため、劇中には「運命」や「第九」などの有名なクラシック音楽が登場。
また、舞台終盤には当時ミュージカルの出演オファーが来たというエピソードもある、大泉さんの素晴らしい歌声が堪能できます。
そして、「COMPOSER」で外せないのは亡霊を演じる安田さんの怪演。
顔をドウランで白く塗り、髪は金髪。限りなく薄くなった眉毛でにやついた笑みを浮かべる姿はまさに人ならざる者。
コミカルなシーンもあるのですが、自身の欲望のためにフランツを手駒にする怪しさや狂気をはらんだ笑い声、絶叫は圧巻の一言です。
「COMPOSER」は複雑な舞台設定や人間関係もないため、舞台を初めて見るという方にもおすすめの作品です。
E:激動の幕末を1人の“現代人”の視点から描いた作品。2019年には外部キャストでの再演版も上演「LOOSER〜失い続けてしまうアルバム」
作品名:LOOSER〜失い続けてしまうアルバム 脚本:森崎博之 演出:森崎博之 出演:TEAM NACS |
あらすじ
毎日を何となく生きている自覚はあるけど、特にやりたいこともないシゲ(戸次さん)。俳優志望の友人と共に参加した新撰組が題材のテレビドラマのスタンドイン(照明などのリハーサル)の帰り、奇妙な男に出会います。男は、1包みで10年の時を自在に移動できる薬をシゲに差し出してきたのです。シゲは興味本位で15包みの薬を手に入れ、150年(上演された2004年基準)前の幕末の時代へとタイムスリップします。
タイムスリップに成功したシゲは、こっそり忍ばせていた歴史の参考書を頼りに新撰組の屯所に到着。 思いがけず新撰組隊士となってしまったシゲは、これから待ち受ける新撰組の試練と運命に向き合うこととなります。 |
「LOOSER〜失い続けてしまうアルバム」(以下LOOSER)は、2004年に上演された作品。新撰組と攘夷志士たちが己の“正義”を持って争う姿を現代人の視点から描いています。
また、「LOOSER」は北海道外で公演を打った最初の作品です。
本作の特徴はなんといっても、「羽織」。片面が赤く、もう一方はグレーっぽい色味をしています。シゲを含めた5人がそれぞれ同じものを身に着けており、赤は新撰組隊士、グレーは攘夷志士を演じていることを表しています。
当時のNACSメンバーは20代後半と30代前半の若手ですが、「羽織の色」以外はほぼビジュアルを変えずに新撰組隊士と攘夷志士を演じ分け、圧巻の演技力を見せてくれます。
舞台の冒頭には「水曜どうでしょう」の人気シリーズ「試験に出るどうでしょう」に出てくる大泉校長と生徒の安田くんも登場。舞台の時代背景を簡単に解説してくれるほか、他にも何度か登場人物たちが時代背景を説明するシーンが存在しています。
また、2011年には森崎さん主演の「LOOSER6」として内容を一部変更したものが、2019年には崎山つばささん主演、福島三郎さんの脚本演出で再演されており、唯一外部で再演された作品でもあります。
F:終戦後、北海道で実際にあった出来事を元に描かれた作品「PARAMUSHIR〜信じ続けた士魂の旗を掲げて」
作品名:PARAMUSHIR〜信じ続けた士魂の旗を掲げて 脚本:林民夫 演出・原案:森崎博之 出演:TEAM NACS、小此木まり、荒居清香、伊藤駿九郎、梅田喬、黒岩司、佐藤亮太、津田幹土、新田健太、原田新平、廣瀬真平、古川ヒロシ、松尾英太郎(スパイスガーデン)、三木秀甫、森下ひさえ、山中雄輔(スパイスガーデン) |
あらすじ
第二次世界大戦が終わり、日本はポツダム宣言を受諾。日本中に玉音放送が流れた3日後。 千島列島の幌筵島に配置されていた小宮少尉(森崎さん)は、「ソ連軍が攻めてきた」という信じられない無線を耳にします。この一報はすぐに占守島・幌筵島の隊員たちに伝わりますが、日本の敗戦が決定した今、残っている装備も隊員もわずか。しかし、島を攻め落とされた先に待ち受けているのは、北海道への侵略行為。 今いる人員と装備でソ連軍を食い止めるほかないと、部隊を問わず小宮少尉をトップとして新たな部隊を結成。ソ連軍を迎え撃つこととなります。 |
「PARAMUSHIR〜信じ続けた士魂の旗を掲げて」(以下PARAMUSHIR)は、2018年に上演された作品。1945年8月に占守島・幌筵島で実際に起きた戦いを元に描かれています。
「PARAMUSHIR」の構想自体は2007年から森崎さんの中であったそうで、きっかけになったのは占守島に今でも残されている朽ち果てた「チハ」という戦車の画像。本作でも同じ名前の戦車が舞台セットとして登場し、圧倒的な存在感を放っています。
さまざまな事情を抱えた隊員が登場しますが、中でも重たい過去を背負っている桜庭上等兵を演じる安田さんの演技力が圧倒的です。桜庭はある事情から心を病んでしまったのですが、病院を訪れる女性工員の優しい歌声と、島にしか咲かない花の美しさに心を癒やされ、女性たちと花を守るために再度戦地に向かうこと決意する隊員。
口数が少ないながらも、命をかけて女性たちと花のためを守る姿は涙を誘います。
そんな女性工員たちが島に伝わる歌として口ずさむのが「幌筵島の唄」。ミュージカルなどで活躍する小此木まりさんらの声は優しく心に響きます。同曲はSpotifyなどの主要配信サービスで「TEAM NACS」と検索すると出てくる「PARAMUSHIR」のサウンドトラックに収録されていますので、そちらも是非。
G:古沢良太&マギーの豪華布陣! 男たちのほの暗くも、極めて人間的な作品「悪童」
作品名:悪童 脚本:古沢良太 演出:マギー 出演:TEAM NACS |
あらすじ
市役所職員の西崎(音尾さん)は、取り壊しが決まった遊興施設「レジャーセンター竜宮」に向かい、拡声器を使っていました。中には中学時代からの友人、吉村(戸次さん)が立てこもっていたのです。 吉村が退去に応じる条件はただ1つ。「中学時代に卓球部だったメンバーをここに集めて欲しい」。 しかたなく西崎が元卓球部のメンバーたちに呼びかけると、皆難色を示しながらも何とか集合します。建物内は、今にも天井や壁が崩れてきそうなほど朽ち果てており、安全のために早く出ることが最優先だと吉村を諭します。 しかし、そこで吉村は、ある同級生の名前を口にします。 それは当時、彼ら全員がいじめていた部員の名前。そして、彼らは芋づる式に中学時代に起きたさまざまな出来事を思い出すことになります。 |
「悪童」は、2015年に上演された作品。堺雅人さんの怪演が話題を呼んだ「リーガルハイ」や大泉さんが主演をつとめた「探偵はBARにいる」の脚本を担当した古沢良太さんが台本を書き下ろし、コントユニット「ジョビジョバ」のリーダーで、俳優としても活躍しているマギーさんが演出を担当。
森崎さんを含めたNACSメンバー全員が、「出演者」としてのみ参加した初めての作品でした。
「レジャーセンター竜宮」を舞台にワンシチュエーションで描かれた「悪童」。
この作品では、特に森崎さんと大泉さんが印象的です。
森崎さんは、比較的おおらかな役、あるいはコメディーリリーフになることが多いのですが、「悪童」では一見平凡で幸せそうな中年男性が抱える、底が見えない程の深い闇を感じさせるお芝居を見せてくれます。
大泉さんは、硬軟どんな役も演じているのですが、やはり一般的には「明るい」「いい人」「面白い」というイメージが先行しているかと思います。「悪童」では飄々としながらも、中学時代のある出来事に触れた途端、突然凶暴性にスイッチが入り、狂気を感じる姿を見せてくれます。
飄々とした明るさの中にも闇が垣間見える、いつもと一味違う大泉さんは必見です!
物語は中学時代の回想をベースに描かれていくのですが、それだけでは終わらないのが「悪童」。
笑いあり涙ありの展開を経て、ラストはスカッとした気分になれる作品です。
「日本一チケットが取れない劇団」TEAM NACS
レビューはいかがでしたでしょうか?
気になる作品が見つかったのであれば幸いです!
今回ご紹介した作品は、AmazonなどでDVD・Blu-rayどちらも販売しているので、ご自身の再生環境にあったものを是非ゲットしてみてください。
それぞれ、メイキングやゲーム企画などの入った特典映像も収録されていますので、そちらもきっとお楽しみいただけるかと思います。
「日本一チケットが取れない劇団」といわれて久しいTEAM NACSですが、これをきっかけにさらにたくさんの人に愛してもらえるようになったら私もファン冥利につきるというものです。
今度は是非、劇場でお会いしましょう!!