とにかく楽して映えグルメ -10分でできるフルーツタルト-

“映える”食べ物を投稿していいねを集めるのも今や当たり前の時代。SNSの世界では今日もより映える料理がアップされまくり、大晦日の格闘技大会よりも激しいマウントの取り合いが展開されている。そう、昨今の料理は味が良いことと同等かそれ以上に、見た目が良いことが求められる時代となったのだ。

自炊需要が増えたと言われる世の中ではあるが、料理が苦手あるいは時間を割けないという人は多く、その調理環境にも格差があると思われる。かつて友人に頼まれておおぶりのカツオ半身を手土産にキッチンを借りた時、「ウチの包丁それだから、自由に使ってさばいていいよ」とにこやかに渡されたのは錆びた小さめの果物ナイフだった。これはもはや調理ではなく剥ぎ取りチャンスではと疑問を抱きながら魚体にナイフを入れていったが、あんな生臭いモンスターハンターはもう二度と体験したくない。

レシピ投稿サイトをみてもそうだ。手間をかけると死んでしまうと言わんばかりに「簡単〇〇」「手抜き〇〇」といったレシピが人気上位を独占。そうしたサイトはむしろスタンダードなレシピが探しにくい魔境と化しており、「簡単カツ丼」と銘打たれたレシピにトンカツが入ってないなど当たり前の世界でめまいがしそうだ。ともあれ世のニーズは“手間をかけずにそれっぽいものを作る”ことにあると教えてくる。

 

そうした世の需要を考えた私は、手間をかけずに映える料理のコツを伝授していきたいと思う。これを知っていれば料理が得意なフリをして意中のあのコに近づくこともできるし、料理が手抜きだねとか家族に言われてムカつくことも無い、顔も知らないSNSの向こうにいるアイツにもデカい顔をしてやれる。横着しつつ食卓を、SNSを支配するのは今だ。

 

とにかく働きたくない

映える料理とは何か。せっかく作るならばなるべく効率的に相手をビビらせるメニューにしたいものだ。

わかりやすく見栄えがする料理と言えばやはりデザート系。フワッフワのスポンジに甘いクリーム、色とりどりのフレッシュなフルーツが織りなす鮮烈なビジュアルと味わいのハーモニーはまさにこの世のヘヴン。特に彩りという面では他のジャンルとは一線を画す“映え”のエリート戦士であり、新作スイーツをSNSに投稿しまくる天下一武闘会が今日も繰り広げられている。

そして最近は罪悪感を感じない食べ物がウケると聞いたことがある。生命維持に必須となる栄養摂取にすら罪を感じるなんて、人間とはどこまで罪深いのかと驚きを隠せないが、とりあえず健康とかヘルシーみたいなワードに敏感な方々のためにフルーツを多く取り入れるべきだろう。わたあめの雲に寝そべってチョコチップをまぶしたソフトクリームをなめたいと脳内スイーツパラダイス状態になった成人男性が妄想を膨らませた結果、フルーツたっぷりのタルトを作ることを決意する。

 

一般的なフルーツタルトの調理手順は、ざっくりまとめると以下のようなものである。

1.タルト生地を作る。

2.アーモンドクリームを生地に乗せてオーブンで焼く。

3.焼きあがったタルトにカスタードクリームを塗る。

4.フルーツを盛りつける。

めちゃくちゃ簡単に書いているが、実際の調理時には緻密な分量調節や厳格な温度管理、専用の調理器具などが求められる。私は正直に言うとアーモンドクリームって何だろうというレベルだ。

タルト生地のような焼き菓子などはどんぶり勘定でチャレンジすると謎の流動食、もしくは人体に有害なタイプの炭が生成されてしまう危険性が大であり、フルーツタルトというものはなかなか面倒な料理だなという気がしてきた。そもそも私は焼き菓子製作に必須とも言えるオーブンも所持していないので、始まる前に終わった感すらある。

 

わざわざオーブンを買うのもな……。調べれば調べるほど面倒な気持ちが大きくなり、いよいよ映える料理とかどうでもよくなってきた私は寝転がって横山光輝先生の名作漫画『三国志』を読み始めた。うん、何度読んでも初登場時の張飛はでかすぎる。

──三国時代、呉の皇帝孫権は「労少なく獲物は最上を狙う」と言っていた。これは効率的な仕事をすべしという指針でもあるが、言ってしまえば楽していい思いをしたいということであり、もっと噛み砕けば「働きたくないでござる」ということにもなる。なるほどそうだよな、寝て起きたらいつの間にか天下統一とかされてたら一番いいもんな。

 

そうかこれだ、なるべく働かずにそれなりに見栄えが良いものが出来ればいいんだ。孫権が生きていればそういう意味じゃないと叩き切られそうな解釈をしつつ、私は材料調達に出かけた。ポップでファンシー、どっきどき☆フルーツ三国志の始まりだ。

 

 

楽してそれっぽいフルーツタルトを作る

揃えた材料がこちら。

大きめのスーパーなら全部揃うかも
全部で1000円くらい

・PLクッキートルテ6号

・フローズンホイップ

・食パン

・リンゴ

・キウイ

・黄桃(缶詰)

 

これだけである。ちょっと大きめのショッピングセンターとかに行けば1000円程度で全部揃うラインナップだろう。薄力粉もバターも卵も私のキッチンには存在しない、あるのはとにかく楽をしたいという強い意思だ。ではタルト生地をどう焼き上げるのか、ここには逆に考え「焼かなくていいや」という選択をするのである。

パイのプロによるおいしい贈り物である
パイのプロによるおいしい贈り物

リボン食品株式会社様のPLクッキートルテ6号である。そう、答えはここにあった、具体的に言うとTOMIZ(製菓材料器具専門店)とかKALDI(コーヒー豆・輸入食材店)とかにあった。

タルト生地は焼かずとも入手可能だったのだ。パッケージの「食のプロへ、パイのプロが贈るこだわりの生地」というコピーも頼もしいかぎり。プロが贈ってくれるとあってはこちらも甘えねば無作法というもの、複雑な仕事とはおさらばして面倒ごとはお金で解決、フルーツタルトは社会の仕組みそのものと言っても過言では無い。

さらにクリームとして冷凍品のフローズンホイップを配備、もうホイップ作業すらしない。冷たいホイップも熱いオーブンも私には無縁、とにかく手を抜きまくる私の心は冷静と情熱のあいだの平常進行だ。

 

映えマウントの頂(いただき)へ

さっそく作っていくことにする。このあたりからはレシピサイトをチェックする気持ちで見守っていただきたい。

 

1.タルトにホイップを塗りまくる

まずはタルトにホイップを絞り出していく。この上からさらにデコレーションするのである程度雑に作業しても大丈夫だ。夢に見たたっぷりのホイップ出し放題というシチュエーション、子供の頃の私に「アレ、大人になったら自由に絞りまくれるぜ」と教えてあげたい。

欲望のおもむくままにホイップを絞りまくれ
クッキー生地とホイップ、いわば勝ち確状態

はい、もうこれだけでもおいしそう、気品すら感じる。

 

2.きざんだ食パンを乗せまくる

タルトのビジュアルにはある程度のボリューム感も必要であり、これが無いと平面的な仕上がりになってしまう。なぜ食パンなのかというと安価にかさ増しできるからという以外の理由はない。そもそもフルーツタルトってパン入ってたっけと思われるかもしれないが、逆にパンを入れてはいけないというルールも存在しない。つべこべ言わずに無心でパンをきざんでほしい、いいから早く。

一般的な包丁でもカットできます
一般的な包丁でカット可能

 

今回は6枚切りのものを使用したが、パンは5枚切りでも8枚切りでも問題はない。食感を統一するためにパンの耳は除いた方が良いだろう。

 

パンと言う名のスポンジ
こういうお菓子だと思えなくもない

中央部が山になるようにサイコロ状にカットされた食パンを乗せると、これはこれで良い気がしてくるから不思議である。料理として失敗する可能性を避けるという意味でリスクヘッジフルーツタルトとか呼べばかっこいいかもしれない。リスクをヘッジしてケアしてマネジメントした結果がブレッドのカットでマウンテンなのだ。

 

3.ホイップを増しまくる

次にやることはここへさらにホイップを乗せていくことである、食パンの山に上からホイップを思いきり絞り出してほしい。そしてある程度絞り出したらヘラやスプーンを用いて表面をなめらかにする。

ホイップで隠蔽
食パンここに眠る

ここは程寧に隙間なく伸ばしていって欲しい。なぜかというとここでタルト生地やパンが露出すると後に乗せるフルーツの水分が入り込んで食感を損ねてしまうからである。パンでかさ増しされた下地部分が見えないようにしていく作業は「調理」というより「隠蔽」に近く、意味も無くドキドキしてしまうかもしれないが法には触れていないので安心してほしい。

 

4.フルーツを切りまくる

フルーツはリンゴ・キウイ・黄桃という信号機みたいな彩りの3種を揃えたが、このあたりは各自好きなものを用意していただいて問題ない。ちなみに黄桃缶詰のシロップは役目があるのであわてて捨てないように。

フルーティなフルーツ
欲望のままにカット

カットの方法も特に決まりはなく、輪切りにしても角切りにしてもいい。どうしてもカットしたくないというならそれはそれでいい。今回私はくし切りにしてリンゴにはちょっと飾りを入れることにした。

ここでのポイントはカットしたフルーツを黄桃の缶詰のシロップにくぐらせる、いわゆる色止めである。別に色止めの方法は塩水とかでも問題ないが、わざわざ用意するくらいならそこにある缶詰を使うスタイルだ、面倒なことはとにかく避けるという精神を忘れないで欲しい。なお色止め処理の後はキッチンペーパー等で軽く水分をとっておくこと。

 

5.フルーツを乗せまくる

さぁ、楽しい時間のはじまりだ。己のセンスを信じてかっこよくフルーツを盛りつけて欲しい。

 

この白いキャンバスに
うおおおお

 

そう、それは自由に、誰にも邪魔されずに。

 

ビタミンカラーの反逆児
うおおおおおおお

 

インスピレーションを信じて、ルールもしがらみも無い世界へ、さぁそんな服脱ぎ去って。

 

直視できない
うおおおおおおおおおお

 

 

 

 

あとは写真を撮ってマウントをとりまくるだけ

今、フレッシュ極まりないフルーツタルトが完成した。直視するのもためらわれるフレッシュさに私も震えがとまらない。

 

所要時間10分
できました

 

あとは各々が利用するSNSに「作りました」と掲載すればOK、なんなら画像加工してさらに盛りまくったっていい。いいところだけを掲載すれば、生地を焼いてないとか、かさ増しに食パンが詰められてるとかはバレやしない。

 

画像加工例:特に意味無く背景を爆発させて孫権を描き加えた場合

 

「どうやって作ったの?」と質問があった場合は、「タルト生地にクリーム乗せてフルーツ飾っただけだよ♪」くらいサラッと言っておけばむしろこなれた料理上手感が出るし、「生地はどのくらい寝かせたの? オーブンは何℃で?」みたいな面倒な事を聞いてくる人には「おまえも角切りにしてホイップの下に埋めてやろうか♪」くらい言ってブロックしてしまえば問題ない。

なおこのタルト、横着して作ったとはいうものの、めちゃめちゃおいしい。材料費1000円、所要時間10分で手に入る価値としては相当なものではないだろうか。

 

希望はここにあった
ちょっとどうかと思うくらいおいしい

 

さぁ、みなさんも横着してフルーツタルトを作っては、そこかしこで暴れてやりましょう。