コンビニやスーパー、ドラッグストアなど全国の至るところで販売されていて、他にも「夏ポテト」「ア・ラ・ポテト」「冬ポテト」の計4種類が季節ごとに展開されている。
週末、Netflixのお供に…なんてお菓子コーナーを物色している方なら一度くらい見かけたことがあるはずだ。そしてその時あなたが手に取ることのなかった「ポテトチップス季節厚切りシリーズ」の素晴らしさについて、少し語らせて欲しい。
最近では、ポテチを非常食に!なんて意見も多数あるらしい。
そう、令和のポテチは既におやつの枠を超えているのだ。
お察しの通り、季節厚切りシリーズだ。一年間で一番リピート買いしている。理由は単純。美味しさの期待に応えてくれるから。
では、季節厚切りシリーズの何がほかと違うのか。
第二に、食感をあげよう。厚切りのポテチは、通常噛みごたえのあるザクザクとした食感が多いが、特に春ぽてとは軽い。厚切りなのにだ。確かに厚切りなのに、その深くギザギザに切り込みの入った波形の影響か、「サクッ、ホロッ」といった軽い食感が楽しい。
例えるならば、春ぽてとは「付き合う前の両思い期間」だ。相手の一挙手一投足に舞い上がって、まるで世界が自分をまるごと受け入れてくれたかのように心が軽い。どっちからおやすみを言おうかなんて、ふたりだけの甘い時間。昨日は連絡がなかったなんて、わたしだけのちょっとした憂い。
「早く付き合っちゃえよ」とか、周りは絶対に口を出さないで。焦ってコマを進めることは、必ずしも幸せへの近道ではないのだ。
春ぽてとで展開しているのは、あま塩とサワークリームオニオンの2種類。
何度経験しても飽きのこない甘酸っぱい恋の行方を見守るような、柔らかい味になっている。
夏。付き合い始めたふたりは変化を楽しんでいる。相手の好みが自分の好みになっていたり、初めは戸惑っていたツンとした行動を愛おしく感じるようになったり。早とちりした誤解やすれ違いも、相手を知るほど深く理解できるようになっていく。フットワークも非常に軽く、他人の声なんて聞く耳持たずだ。
4つの季節シリーズの中で唯一3種類の味を展開しているのが、夏ポテトである。
浜御塩、南高梅、安曇野わさび。
茹だるような暑さの中で、安定の塩を選ぶも良し。酸っぱさできゅうっとなる感覚を楽しむも良し。わさびのツンとした鼻に抜ける辛さを味わうも良し。様々な変化を楽しめる夏だ。
多くの発見と驚きと共感と理解。関係を深めるふたりのように、パリッとした食感に爽快感を感じるような味わいが特徴だ。
秋はア・ラ・ポテト。
どうして秋ぽてとじゃないの?たぶん誰もがそう思っているはず。わたしもそうだった。だがすぐに答えは出た。
ア・ラ・ポテトという名前は、ア・ラ・カルトに由来している。「お好みの味を選ぶ料理」だ。つまり、秋はそれまでお互いのことしか見ていなかったふたりに余裕が生まれ、改めて自分自身を見つめ直しているということではないだろうか。
自分の好きなもの、時間、体験を通して得た喜びや価値が、どれほど人生を豊かにするか。その自分好みの塊を相手と共有できる人生がどれほどの幸福か。ア・ラ・ポテトは、わたし達に教えてくれているのではないだろうか。
この数年間で展開している味はうすしおとじゃがバターの2種類で落ち着いているが、過去には香ばししょうゆ味を含めた3種類が発売されていた年もある。さらに遡ると、「春のア・ラ・ポテト」なんていう商品が出ていたりする。ちょっと待ってくれ。春にア・ラ・ポテトが出てたなんて聞いてないぞ。完全に春のふたりにちょっかい出しにいってる。「早く付き合っちゃえよ」とか言ってる。
冬になると登場するのがチーズだ。チーズ系のポテチは、味が濃くてくどさを感じるものも少なくない。しかしそこは季節厚切りシリーズ。期待を裏切らないので安心してほしい。
冬ポテトは少し幅の広い波形をしており、モーグルカットと呼ばれている。スキー競技でお馴染みの、あのモーグルだ。雪の斜面にあるコブのようにボコボコとした波形で、こちらも食感はかなり軽い。味は粉雪ソルトと粉雪チーズの2種類。そしてこのチーズ。濃すぎず、くど過ぎず、ガツンとくるわけじゃないのに心はガッツリ掴まれているような、素晴らしいバランスで仕上がっている。
安定したお付き合いを続けているふたりも、冬ならではのイベントを前に再び盛り上がってくるのが年の瀬だ。
待ち合わせ場所、相手を待つ間に降ってきた粉雪。手のひらに触れてはじんわりと溶けていく様子に、マフラーで覆った口元がゆるむ。平日のクリスマスイブは、帰宅途中の会社員と、これから今日の始まりだと言わんばかりにお洒落をして胸を弾ませている人たちがごちゃ混ぜになっている。
ふと、向こうから笑顔で駆け寄ってくる姿が見えた。笑うととことん細くなる目が、相も変わらず好きだなと思う。街を飾る粉雪が、繋いだ手の上で溶けている。
わたしにとっての季節厚切りシリーズは、もはやおやつの枠を超えている。
自然の少ない都会で暮らし、四季折々のイベントも軒並み中止になっているなかで、このシリーズが新しい季節を知らせてくれるのだ。四季を感じさせてくれるのだ。感謝せずにはいられない。